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人間迷路 Vol.400 ウクライナ侵略と台湾有事の関係などを論じながら、オリジネータープロファイルって美味しいのという話やTikTok騒動などを論じる回

2023年03月28日配信
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┃人間迷路┃Vol.400
--ウクライナ侵略と台湾有事の関係などを論じながら、オリジネータープロファイルって美味しいのという話やTikTok騒動などを論じる回
                           やまもといちろう
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■ePub版→http://yakan-hiko.com/EPUB12698
■mobi版→http://yakan-hiko.com/MOBI12698
■web版 →http://yakan-hiko.com/BN12698
                         2023年3月28日発行
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【0.序文】ロシアによるウクライナ侵略が与えるもうひとつの台湾有事への影響
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 ホンジュラスが台湾との外交面での断交を宣言しました。

台湾と外交関係維持は13カ国に ホンジュラスは断交宣言
https://mainichi.jp/articles/20230326/k00/00m/030/101000c

 もちろん裏側には中国の台湾孤立策のための経済援助にホンジュラスが「転んだ」からであって、それはホンジュラスが悪いという話でもなくいつもの札束攻勢で国際社会から台湾を外すために意図的に取り組んできたことの一つであって、あまり驚きはありません。

 他方で、中欧チェコが訪問団を組んで台湾訪問をするというムーブがありましたが、これは必勝しゃもじ同様に中国による潜在的なロシア支援は欧州の平和安定に良くない影響があることを中国に伝えるメッセージであるのが第一義です。

台湾総統、チェコ訪問団を歓迎 「民主主義のパートナー」
https://jp.reuters.com/article/taiwan-czech-idJPKBN2VT07P

 加えて、ロシアによるウクライナ侵略は武力による現状変更という意味で安全保障においてもっとも最悪な手段のひとつでもありますから、同じ手段で台湾併合を行いひとつの中国政策を推進しようとする中国はロシアの戦争の帰趨がその後の作戦や、外交的な大義名分そのものへのプレッシャーとなるのは当然です。

 また、チェコ訪問団による訪台が抜き差しならない可能性があるのは、単に台湾をChinese TaipeiではなくTaiwanと明記したうえで民主主義国家としてのパートナーシップにまで明言する可能性を示唆している点で、アメリカ以上に欧州が先に「台湾は国家です」と認めてしまうと中国が進めている「ひとつの中国『原則』」からは大きく後退することを余儀なくされます。ホンジュラスに多額の開発支援を保障して台湾との断交を迫る理由は、ひとえに台湾を国として認めさせられない中国側の事情によるものです。

 国際的孤立を進めることで中国に直接の利益はなく、単純に中国の政治的事情であることに加えて、これらの中国の戦略に関する考え方が非常に独特過ぎて何故中国は具体的な軍事活動を対外的に行ったわけではないのに考え方の違いが大きすぎてどうにもならんというのが正直なところです。

 つまり、日本も諸外国も基本的に国家主権の下で専制主義だろうが民主主義だろうが基本的には国民から選ばれた政府という建前でその地域のや国の代表者が国民全員を管理しますよということで国家元首になるのが国民国家の概念となります。ところが、中国の場合は明確にそれとは異なるとは言わないものの、統治の立て付け的に中国国民の代表者としてまず中国共産党があるはずが、ここが割と曖昧であって、しかし国家主権の領土を統治しているのは中国共産党であるという地位となります。

 全人代も含めた中国統治機構の仕組みは、実質的に、この共産党という党組織のトップを決めたうえで、それがいわゆる国家の要職である元首以下各役割を当てはめられていくというスタイルになっています。中国という国に政府があってそれを支えるのが共産党組織なのではなく、中国政府の上に共産党が乗っている、という話になるわけです。

 したがって、乱暴な例で言えば北朝鮮や韓国、日本が中国との何らかの戦争に負けるなどして隷属する場合、中国シンパの政権ができるのではなく中国共産党が指名する統治者人事を北朝鮮や韓国、日本が受け入れるという話になります。同じことは、ロシアの衰弱に中国が加担していく場合、例えばシベリア共和国のようなものが分離独立して、そこが中国共産党の人事使命を元に地域政府を樹立するという方向で「合法的に」ロシアの一部を中国が併合することを企図することが考えられます。

 香港やマカオの例を見るまでもなく、党組織の決定に現地自治組織が従うという構造は中国特有の統治組織であって、西側が考える独裁的な専制主義政治とは構造がまったく異なります。そして、米欧の中国専門家も、個人個人の中国人や権力のメカニズムは理解しておきながら、ときとして中国は専制主義国家だからと考えて中国政府の力を過信する傾向にあるように思います。基本的にはソヴィエトという会議体があって、そこに参加している国家がいなくなったからソヴィエト連邦は崩壊したのと同じく、中国共産党というものがまずあり、そこに隷属している地域や州が人事使命を受け入れて一体となり、中国政府というガワを被っていると認識しないと結構間違うと思うのです。

 彼らが「ひとつの中国『原則』」という言葉で台湾を包み込もうとするのも、中国政府と一体となれというよりは、実質的な意味合いとして中国共産党の人事を受け入れろというニュアンスになるものである以上、根源として民主主義とは深刻に相容れないことになります。そもそも、地域の人たちが自分の地域のことを決めることよりも、党組織が指名した統治者を受け入れたうえでそれに従う前提で構築されていますので、立て付けが根本的に異なるのです。

 中国のビジネスマンらとそういう話をしていると、日本でも総務官僚が地方政治に降りて行って知事をやったり、人事交流で副知事や総務課長などを派遣しているのは中国のやり方と同じではないのかと指摘されることがあります。彼らの認識ではそれが統治なのだという話になるのは何となく分かるんですが、それでも一応はちゃんと知事選を含めて地方選挙というものをやり、地域住民が選んだ知事職や首長が決まり、あるいは体制側がどんなに自信を持って送り込もうとする人物であろうともそうではない人に選挙に負けてしまえば本当に、文字通りただの人になります。中国人は概念的に、中央が送り込んだ候補者でも選挙に負ければ路頭に迷うのだという原理原則そのものが理解できないのかもしれません。

 もちろん、私も中国の有識者に「米中対立で日本が参戦する意味がないのではないか。台湾同様に、中国共産党と一体となる日本人組織ができて人事使命を受け入れれば、それは立派な中国になるのだから」と冗談ぽく言われますが、まあまったく理解できんなあと思うわけですな。山本一郎は筋金入りの民主主義者だと言われるのも分からんではないのですが、私はただ単純に日本に生まれ育って政治システムとしての民主主義はムカつくことはあってもそんなに大きな間違いを犯す政体ではないことを知っているから信じられるというだけのことです。

 米中対立における台湾問題が、ロシアによるウクライナ侵攻と問題としては地続きであり、ロシアとも中国とも隣国である日本が台湾有事のために為すべき役割を考える上では非常に重要な事柄はここなんじゃないのかと思わずにはいられません。

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目次
【0. 序文】ロシアによるウクライナ侵略が与えるもうひとつの台湾有事への影響
【1. インシデント1】オリジネータープロファイル(OP)離陸と「広告は勧誘か」問題
【2. インシデント2】TikTokを巡る諍いは米中の面子をかけた戦争の一つとなるか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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【1. インシデント1】オリジネータープロファイル(OP)離陸と「広告は勧誘か」問題
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 2015年ごろから、内閣府が当時中心になって進めていた消費者契約法の改正あたり、懸案となったのは「広告は勧誘か」の問題です。こんにちプラットフォーム事業者の課題が浮き彫りになる中で、2023年になったいまでも寄せては返す波のように蒸し返される定番の問題とも言えます。

 それだけアドフラウドによるネット環境の悪化が問題となっているだけでなく、問題のある媒体が問題のある広告とセットで多くのネットユーザーが踏んづけて被害を発生させている現実があるなどして、騒ぎに拍車がかかっている面はあります。先般の消費者庁ステマ議論もそうですが、そもそもネットにおける広告とは何なのかという議論は古いようで新しい問題になっており、なお、いまネットリテラシーとか情報流通経路においても計算社会学的観点からもうちょっと機能的に整理し直され検討されるべきというのは一理あります。

 媒体側は特にフェイクニュース問題が騒がれ、ディスインフォメーションが米中対立で緊張感のあるところいわゆる認知戦の主要兵器として重要であると考えられるようになると、ナラティブを発信することの是非とか(まあこれもまた昔は湾岸戦争の頃の戦争広告代理店での油を被った海鳥やナイラ証言のようなネタが出てくるわけですが)、買収されたメディア人による政治的立場偏重問題とかが出てくることになります。

 加えて、これらのネットと発信については、広告も含めて表現の自由が出てきますし(別稿TikTokでも論じますが)、消費者問題としてのネットトラブルからメディア産業の在り方、安全保障にいたるまで、非常に広いレイヤーの物事が「ネットでの出来事」という同じ箱に入れられてしまっているのはさすがに課題があるだろうとも思います。

 で、ここで切り札の一つとされるオリジネータープロファイルのようなモデレートされたコンテンツ流通に重きを置かせるという仕組みが登場して実証試験の開始がニュースになったりしていました。勿論裏側にはアテンションエコノミーによるネット言論市場の暴走にも咎はあるのですが、一方でそれだけ人間の欲望に忠実なフィルターバブルが定着すると意外と人間の興味対象なんてそんなものであるという認識にもなります。これはネットの特性というよりは、共同幻想的なフリーミアム(無料でサービスを展開し、PVなど影響力に応じて広告費を支払う経済モデル)がなした技でもあります。

ネット情報に信頼性付与、OP技術開発にNTT・ヤフーなど新たに6法人加入
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230323-OYT1T50353/

 思い返せば、かつて高収益企業として名を馳せた消費者金融が武富士ショックとともに官憲や金融当局からの怒られの果てに分離解体させられ、メガバンクを中心とする系列化に軸足を置く過程で最高裁のアレのお陰で過払い金訴訟が乱舞して、仕込んだ偉い人は共産党に担がれて都知事選で無事敗北するという流れもありました。同じようなことがネットでのメディア事業で起きるとは思いませんが、今回のOP技術は筋が良いものとするとそもそもその第三者機関は何よというジレンマを持つのと同時に、最終的にこの仕組みだけで何が解決するのかという問題に直面します。おそらくOPは仕組み的にも有用な技術なのでしょうが、おそらくこれ単体ではただの第三者認証と技術バックボーンを担うまでの制度ですから、他の技術や枠組みを組み合わせて解決していくしか方法がないんじゃないかと思うわけです。

 冒頭の広告は勧誘なのかどうかで議論された内容が蒸し返されるのも、ナラティブも含めてネットでの情報流通の仕組みは単に知る、考えるではとどまらず、買う、参加するなどのアクションを引き起こす目的で情報が提供されるものであるからです。ケンブリッジアナリティカ問題が、いみじくも投票に行かない人たちはこの人に投票することが必要だという情報をインプットされると、4%ぐらいの人は本当に投票所に行ってしまう実情を解き明かしていました。ネットで流れる情報と人間の行動との間にあるものは、牧歌的なテレビCFの時代からするとかなり科学的かつ巧妙になり、さらに具体的にこういう関心を持っているこのクラスタのこの人というリアクションしてくれそうな人を炙り出せる個人情報の流通というベースが根底にあります。

 つまり、ネットで流通する情報や広告の出元を明らかにしたうえでそれが正しいのだと認証するだけでも充分に重要な機能が果たせるのではないかという仮説はたぶん成立するけれども、それを効果的なアドフラウドや陰謀論も含めた望ましくない情報流通を制限せしめるだけの機能を果たさせるには他の仕組みが要ることになります。裏を返すと、OPは技術的には単に流通している情報に関して、こういう編集方針の媒体の記事ですというタグを正確に書いてその記事と一緒に流通させるというだけですから、そもそも私らなんでそんな出所不明の情報を見て右往左往しとったのという話になります。

 広告も、この広告会社が配信したこの企業からの広告でやんすと明記して配信するだけですが、留意点としては海外からの広告配信はメディアによって弾かれるとか、個人ブログも含めた与太媒体や与太執筆者は枠組みからパージされる可能性があるという点で匿名で発信する権利とか、情報の国内海外流通が阻害されるんじゃないかとか、この手の話では実に定番の問題提起はなされることでしょう。

 また、この手の話では面倒くさいイチャモンをつける新聞業界各社や新聞協会が大人しいのも、お前らの出した新聞は信頼ができる(まあ実際信頼できるので)前提で作る仕組みなんだから損はないでしょうという話に尽きます。淡々と、割と静かに話が進む現状はこの問題がちゃんと分かってないのか、分かったうえでまあいいやとなっているのかは良く分からんのですよね。

 年初ぐらいから取材とかされても私は「まあいいんじゃないですか」という賛成の立場でもあるので取材者は面白くなさそうに帰る光景が目に焼き付いております。すいませんね、ほんとに。

 んでまあ、昨今はChatGPTなど言語モデルが全盛になるのではないかという時代に突入しつつあるのですが、先般も、判例を調べようとした先生がChatGPTをコールして判例を打ち出させて「一日がかりだったものが3分で」と感動していたけど、出てきていた判例は全部架空のものだったという素敵なオチで出ていました。

https://twitter.com/sekiguchisatosh/status/1631202532923179015

 ネタとしては笑い話なのですが、情報流通の観点からすれば真顔になるのはこれからAIで生成された大量のもっともらしい偽記事を含むディスインフォメーションがたくさん流通し、そのうちの幾らかがネット民に拾われて拡散することで大変な風評被害や社会不安が起きることは想定されます。正直ヤバイと思うわけなんですが、OPがこれらの意図を持った偽情報の流通抑止のピースの一つになるのであれば、ネット利用者を守るためにも一連の技術を開発して実証研究し広めていくことは必要なことなのではないかと思いました。

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【2. インシデント2】TikTokを巡る諍いは米中の面子をかけた戦争の一つとなるか
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 米国とEU圏において政府・行政関係者の業務用デバイスにおいてTikTok使用を禁止する動きが広まっています。

 もの凄い警戒感で、好感が持てます。

バイデン米政権、連邦政府機器でのTikTok使用禁止に向けガイダンス発表
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/03/b0f6ff29793ec8af.html
TikTok ヨーロッパ委員会も職員の業務用端末での利用を禁止へ
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230224/k10013989471000.html
ベルギー政府、公用端末でのTikTok利用禁止
https://jp.reuters.com/article/belgium-tiktok-idJPKBN2VF05O
英国、政府端末でのTikTok使用を禁止
https://www.cnn.co.jp/tech/35201425.html
オランダもTikTok削除指示、公務員の業務用携帯から
https://jp.reuters.com/article/netherlands-tiktok-idJPKBN2VO02Q
フランス、公務員の業務用携帯電話でTikTok禁止へ
https://jp.reuters.com/article/france-tiktok-idJPKBN2VT06F

 ちなみに我が国での状況はどうかといえば、ヨーロッパ委員会におけるTikTok使用禁止を報じたNHKのニュースの中で松野官房長官が以下のようなコメントを残しています。

[引用]
わが国では、政府端末で要機密情報を取り扱う場合は、基準によりTikTokをはじめ、SNSなどの外部サービスの利用はできないほか、要機密情報を取り扱わない場合でも、さまざまなリスクを十分踏まえたうえで、利用の可否を判断するよう定めており、各省庁で適切に対応している
--ここまで--

 昨年9月にデジタル庁はTikTokを使ってマイナンバー制度啓蒙コンテンツを公開して一部でちょっとした騒ぎになりましたが、あれはデジタル庁としてさまざまなリスクを十分踏まえたうえで利用したということだったのでしょう。

 確かにTikTokをインストールして使っている人は危険なのは間違いないのですが、マイナンバー制度のPRで使うにあたりそれを受け取る人はTikTokを使用中の人たちなわけですから、問題はあるけど使われている限り仕方がないという考えになるのはTikTokもLINEも同じです。

TikTokでマイナンバー制度PR 情報流出懸念のアプリ使用 デジタル庁にネットで批判相次ぐ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/201960

[引用]
河野太郎デジタル相は13日の記者会見で批判に対し「動画で機密が漏れるということはなく、問題ない」との認識を示した。ティックトックの広報利用についても、政府には規制するルールはないとしている。
--ここまで--

 コンテンツそのものの制作はTikTokに依託で、完成したコンテンツを見るためにTikTokにアクセスするのはエンドユーザーである一般国民ですから、デジタル庁から機密が漏れるリスクはまず無かったと考えるのが妥当でしょう。もし当該動画を見たTikTokユーザーの個人情報が収集される可能性があったとしてもそれは自己責任というやつですね。さすがクールジャパン。

 さてTikTokを巡ってはとくに米国において状況がより切迫しつつありまして、米連邦議会下院において米国内でのTikTok一般利用を禁じる法案が可決してしまいました。誰も使ってはならんということで、政府関係者の業務用端末での使用禁止とは次元が違いすぎて驚きます。もっとも下院で可決したからといってそのまま法案が成立することになるのかどうかはまだ不明ですが。

米下院委、TikTok禁止法案を可決 大統領に権限付与
https://jp.reuters.com/article/usa-china-tiktok-idJPKBN2V341M

[引用]
法案は今後、上下両院の本会議を通過し、バイデン大統領の署名が必要で、成立までの道のりは依然不透明だ。しかし成立すれば、1億人超とされるTikTok利用者に影響が及ぶ可能性がある。
--ここまで--

 さらにTikTokの運営会社である中国の親会社に対して米政府はTikTokの売却を要求していることがメディアで報じられました。

米、TikTokの中国オーナーに持ち分売却しなければ禁止と通告-関係者
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-03-15/RRL5XYT1UM8201

[引用]
ティックトックの広報担当、モーリーン・シャナハン氏は発表資料で、「国家安全保障が目的なら、分離は問題の解決にはならない。所有者が変わってもデータの流れやアクセスに新たな制限が課されることにはならない」
--ここまで--

 この部分だけを取り上げるならTikTokの広報担当者の見解は正論でしょう。当然ながら中国政府もこうした米政府の要求に対して断固否定的な見解を表明しています。

China Says It Will Oppose Forced TikTok Sale
https://time.com/6265452/china-forced-tiktok-sale/

[引用]
“If the news is true, China will resolutely oppose it,” said a Ministry of Commerce spokeswoman, Shu Jiting. She gave no indication what Beijing might do.
--ここまで--

 しかし、確かに中国資本ではあるものの、なんで中国政府がこんなコメントを出しているのかいまひとつ良く分かりません。

 米政府がTikTok売却を強要した場合に中国政府が一体どのような形で対応するつもりなのかはわかりませんが、「resolutely oppose it(断固反対する)」という言葉の選び方には一旦事が起これば生半なことでは済ませるつもりはないという強い意志を感じます。

 こうした米中によるちょっとした舌戦が繰り広げられた後のタイミングで今度はいよいよ米議会にてTikTokのCEOを招いての公聴会が開かれるわけですが、その直前でTikTokは米議会を脅すような発表を行いました。

ティックトック、米利用者1.5億人 停止の影響度アピール
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69497010S3A320C2FF8000/

 米国人口は2021年の統計で約3億3,200万人ですから、TikTokは米国民のおよそ半分に利用されていると解釈できます。そんな国民的支持を得たアプリ・ウェブサービスをお上が使用禁止にしたら国民の反発がどのようなものになるか分かっているのかといったところでしょうか。

 さらに公聴会が開かれる首都ワシントンにTikTokインフルエンサーが集結し抗議活動を行った模様です。

TikTok禁止の動き、インフルエンサーが米首都で抗議
https://jp.wsj.com/articles/https-www-wsj-com-articles-tiktok-stars-mount-washington-blitz-against-u-s-ban-f6d7834-fe55520b

[引用]
TikTokで30万人近いフォロワーがいる大学生のアイダン・コーン=マーフィー氏は、「TikTokは子供向けのダンスアプリではない」と主張。権利擁護グループ「Gen-Z for Change」の創設者でもある同氏は、「TikTokは若者たちが互いに関わり合い、市民活動に参加するための最も強力なツールの一つだ」とも続けた。
--ここまで--

 もし実際に米国でのTikTok使用が禁止された場合、こうした抗議活動がさらに拡大する可能性が想像されますし、社会運動をするような人々にとってもTikTokが有力なツールとして機能していることがうかがえます。つまりプロパガンダに最適なツールであることがあらためて認識できるわけです。

 まさに1億5000万人の米国民を楯にしたかのようなTikTok側からの圧力を感じながら開かれた公聴会は、当然の帰結なのでしょうか、何がなんでも叩き潰してやると気負った議員達による叱責に近い質疑がTikTok CEOに向けて投げつけられるような展開となったようです。

TikTokを巡る公聴会から、埋めがたい「認識の違い」が浮き彫りになってきた
https://wired.jp/article/tiktok-hearing-congress-us-privacy-law/

[引用]
5時間を超える公聴会では、米国においてデータプライバシー保護の規則を連邦レベルで導入することが、いかに喫緊の課題であるかが浮き彫りになった。一方で、議員たちはどういうわけか、代わりに中国をやり玉に挙げればいいだろうと考えていることも明らかになったのである。
--ここまで--

 要するに、TikTokに限らず多くのウェブサービスにはデータプライバシー保護に関わる問題があることが明らかにされながらも、議員の多くはいかに中国を叩くかにプライオリティをおいており、逆にいえばデータプライバシー保護にはほとんど興味も知見もないことが露見したという残念な状況であるようです。どこの国の政治家も変わらないものですね…。

 ただ、TikTokを巡って米議員達がこれだけ熱くなるのは中国政府による中国企業統治のあり方にも原因があることは間違いありません。

[引用]
中国の法律で中国国内の企業は、「求められたら、究極的には中国の情報機関の命令に従う必要があります」と、この法案を執筆したひとりで上院情報委員会に長年にわたって所属してきたマーク・ウォーナー(民主党、バージニア州選出)は語る。今回のティックトックのCEOが語った内についてウォーナーは、どれを聞いてもこうした懸念を払拭できるものではなかったと指摘している。
--ここまで--

 米国政府にとって悩ましいのはやはりTikTokが米国民にとって突出して人気があるサービスであるところでしょう。こんにちの米国でTikTokは単なる子供に人気のある動画アプリとしてだけではなく、ある程度の富をもった大人が買い物情報を漁るための主要ツールと化している側面があり、そうした金を持つユーザーへ商品を宣伝するためのもっとも効果のあるメディアともなっています。

検索エンジン化が進む TikTok 、恩恵を受けるリテーラー:宣伝やPRのためのプラットフォームに
https://digiday.jp/platforms/as-tiktok-becomes-a-search-engine-big-ticket-retailers-including-car-dealerships-reap-the-benefits/

[引用]
TikTokは投稿したコンテンツをバズらせ、より広範なオーディエンスにリーチできる機会が、インスタグラムやFacebookといったプラットフォームよりも多く、その要因は主に前者のアルゴリズムにある
(中略)
TikTokユーザーの34.9%が18歳から24歳だが、25歳から34歳も28.2%と大きな割合を占めている。つまり、高額商品を扱うリテーラーにしてみれば、そこに重要なオーディエンスがいることを意味する
--ここまで--

 この記事の伝えることがすべて事実であれば、もはや米国においてTikTokは経済活動を担う重要なITサービスとなっており、これを政府が一律に使用禁止にするということはそうした国内の経済活動を自ら破壊することを意味します。このような状況を知れば知るほど中国政府はTikTokについて強気になるでしょうし、まただからこそ米国政府としては規制したいと感じるのかもしれません。

 いわば、中国からすればアメリカ国内の分断を自ら促してくれるアプリの流通に成功させたとも言えるわけで、TikTokを運営するByteDance社の問題はこれからいろいろと出てくるにせよ大きな武器を持ったことは間違いないのです。

 自由主義国におけるTikTokの使用禁止については言論の自由に関わる問題であるという観点からの論考も少なくありませんが、国家安全保障という視点からすればTikTokは経済戦争あるいは情報戦争の最前線という見方もできるでしょう。自由主義国という建前においてはTikTokを禁止するという行為は明らかに言論の自由に抵触するのは誰もが十分に理解できることですが、TikTokの存在を許すのは結果的に自由主義国の立場を危うくさせるような事態を招く懸念を払拭できません。

 今のTikTokを巡る諍いは米中の面子をかけた大事件となりつつありますが、まさかTikTokが国際政治の大問題にまで発展するとはTikTokが登場したときには誰も想像しなかったし、当のTikTokの中の人もそこまで大きな野心は抱いてなかったんじゃないかと思んですよね。世の中何がどうころぶか本当に分からないものですが、しかしこの件こじれすぎてしまって事態はそう簡単には解決しなさそうに見えます。一体どうなることやら…。

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【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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Q 【Colabo問題の当事者ですが、ロバ耳と思って聞いてください】

山本一郎さん、こんにちは。
スペックとしてはさいたまから短大を出て看護師資格を得て、
勤務後デキ婚して出産産休出産産休出産産休(自粛)しているうちに、
主人の不倫と破産でワープアシンママとなりました。

貧乏過ぎて気が狂って実家に戻り、何とか立て直して大学に入り直し、
人生何度目かのやり直しをまだ幼い子どもたちと共に進めています。

子どもと一緒におばさんも成長してるなって感じがします。

あっ、人間狂うってことはあるんだな、
そして狂ってる時は実感がないんだな、って
いうことが分かったのは人生の収穫でした。

たまに子育てや社会系のnoteを書いたりしていますが、
一回り以上若い同級生に囲まれて子持ちのおばさんが学んでるのは
シュールだねって自分で思います

さて、今燃えているColabo問題については
山本さんも参戦していて臨場感がありスポーツ観戦してるみたいでした
途中で暇空茜さんとやり合ってましたが
あのタイミングで撤収されたのは山本さん賢い!と思いました

(略)

問題の本質は、言われているほどColaboが寄り添えていないし、
頑張っているけど必ずしも常に100%確実に救えるわけじゃないよってことで
一番の問題は私は想像を絶するほど頭の悪い、
先を考える能力のない女の子たちというのが現実にいて、
その子たちが社会的リスクにさらされて生きているってことじゃないかって
思います

なぜ思うかって、私がそうだったからなんですが、
最初の子は私は21才で生みましたが、
その時はセックスで子どもができるなんて良く分かってなかった
避妊? ピル? 何それって感じで、人を好きになったら何となく
子どもができるんだってぐらいの感覚でした。

しかも、出産直前までに中絶すれば大丈夫なんだと思ってましたね
馬鹿なんだなって今振り返ると思いますが

(略)

そこに登場したのが仁藤夢乃さんや(自粛)さん(自粛)さんだったんです
看護師時代にお世話になった婦長さんからの紹介で地元の活動を
手伝っていたのですが、
今にして思えばあれって共産党じゃんと思うんですが、
そこで斡旋してもらった活動で助けてあげてというのでいってみたら
Colaboだったんです。

すいません私その辺の事情は右も左も分かりません。

山本さんを知ったのも8年ぐらい前にアルバイトをしていた先で
風俗派遣をやって捕まった人がいて、
そこで困っている女の子が
行くところがないというので何泊か泊めてる時に
生活保護で行く先が見つかったというので
ついてったら(自粛)の山本さんのアパートだったよってことで、
そこから誰なのこの人と検索して知って、
記事も読んでなんだよ活躍してるまともな人じゃんと思って
ネット読者としてファンになり
そのまま父ちゃん名義でメルマガも取ってって流れです。

(略)

その点では、Colaboの活動は問題を抱えてリスクのある女の子にとっては
意味はある活動だよなって思ってます
そういうことを知っているのは経験のある私だから、
妊娠しちゃった子を
産婦人科の先生のところへ連れていくのが私の役割だったりもします。

暇空茜やなるが書いてることも理解できなくはないけど、
そこまで悪気があってめちゃくちゃしてるって感じでもないです

ただ活動の周りに明らかにおかしい雰囲気のおっさんはいます
Colaboが悪いのではないけど、保護されたはずの女の子をつけ回したり、
あれってレイプだよねってことを起こして何重にも被害を受ける子は
います。

(略)

整形とかホスト狂いとか風俗勤めとか、
そういう子はたくさん周りにいます。私が一番まとも。おばさんだけど

今回の事件を機に、そういうシャカイの成り立ちに山本さんがツッコミを
入れてくれるといいなと思います!

感想でした

A 【お、おう】

 個人的にはColabo問題やその周辺の公金チューチューからの共産党問題というのは、それなりに観てきた立場からしますと「まあそういうことだよね」っていう理解には至っています。暇空茜さん界隈もようやく本人の異常さに気づいて下火になりつつある一方、彼が投げかけた問題の本質は単純に不適切会計や東京都のセクショナリズムだけでなく、社会的に高いリスクを持った状態で放置されてしまっている若い女の子たちを行政として民間とどう連携を取りながら適切に救済していくのかという方法論が確立していないことに課題があるのだろうと思っています。

 それは、公金チューチューという観点で言えば世にある福祉事業というのはほぼすべてが公金チューチューになるわけですよ。だってその事業では儲からないんだもの。だから、社会起業家を養成するぞといっても、結局それは都道府県なり自治体なりから委託された事業をうまく回す福祉分野での都合のいい外注先としてのボランティア団体・NPOとしての属性からどうしても抜け出せないでしょう、という構図があるわけです。

 今回話の中核に来ている村木厚子さんにしても、彼女がどうだという話はまったくなくて、むしろ現状がこんなにひどいのに、いままでの公共・行政の枠組みではとても手を入れられるほど充分なセーフティネットなんて組めないからささやかな予算を組んで救済できる仕組みを作ってみましょうという以上のものは無いのだと思います。

 志は善良であったとしても、仕組み的には何かをするには当然カネはかかるし、人のやることなんだから問題は起こすし、そもそも領収書が無いぞとか、組織になっとらんやんけと言われてもそういう世界で生きてこなかった人たちが従事する仕事なのだから、アファーマティブアクションがどうだとかいっても屁のツッパリにもならんのですよ。悪く言えば、企業活動の経験もない人がそれなりの組織の予実を管理して計画書を自治体や都道府県に出し、領収書をまとめて決算書を仕上げるなんてことは普通にやっていたら彼らにはできない。

 暇空茜さんらはそのあたりを突いて「不適切だ」「犯罪だ」と騒いでいるわけですけど、一面ではそれはい事実だと思うんですよ。公的な仕事を請けるのに変な会計をやるのは駄目でしょうからね。ただ、そういう人たちのいる世界なのだという解像度もまたとても低いので、彼らは世間知らずなんだなと思っているうちに私はナニカグループの一員にされ、いろんなところの犬にされるという彼らの妄想の具にされてしまったというオチです。

 で、この辺で本当に悪いのは何なのよと言われたら、私は厚生労働省として、あるいは内閣府が男女共同参画や被害者略取対策で予算化させようとしている各種審議会の有識者選定はゴミだと思っています。利益相反そのものだと思うんですよね。自分たちでこの政策は必要だと言って予算を求めて、その予算をもらうのは自分たちの団体なのですから、自作自演というレベルを超えて違法ではないかとすら思います。

 何より、そんなの誰が見ても利益相反なんだから、誰か中にいるやつはちゃんと指摘しろよと思うわけですね。だって犯罪なんだもの。厚労省の人も「問題だと認識はしています」とは言っていましたが、でも是正がむつかしいのであれば一度は立ち止まらないと駄目なんじゃないですかね。

 また、宇佐美典也さんが地方自治法違反だと騒いでましたが、私もあれは正しいと思います。健康福祉局と財務局との間で見解が異なるのも、扱う行政分野で必要とされる確認書類や意志決定の粒度が根本的なところで異なるうえ、随意契約であれを出すことは望ましくないという方向で都議会は決着させざるを得ないはずです。その辺の是正はちゃんとやって、しかし救われるべき子どもや若年女性をどうにかしろやというのは考えないといけない。

 その地続きになっているのがご指摘のようなホストクラブや美容整形、エステなどでの債務問題と風俗産業の問題ですから、女性が食い物にされているからどうにかしろという話になるのは本来は喫緊で取り組まないといけないことなんだろうけど行政が手続き論も含めて適正化させるには難点が多いんじゃないの、というのが正直なところです。

 最後に、私の物件にご入所されたご関係先がいたとのことで、たぶんそういうご入居希望者を面談させていただいたときにご一緒したかなと思っています。まだお住まいなんじゃないですかね? 長らくお会いはしていませんが、お元気であるなら何よりです。

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