原発は是か非か
もちろん「原発は絶対安全だ」と言い続けた国や東京電力の問題は大きいと思います。ただ今回の事故に関して批判的な主張をしている側にも、その議論の仕方においては大いに反省点があるように感じるのです。
このように一見議論が盛り上がっているようで、本当に考えるべき大事なことが見過ごされていっているという状況は、津波の被害や放射能の被害とはまた違った方面から、日本という国の将来を危うくしていると思います。こうした状態があまり長い間続くと、議論の上ではなくて、気持ちの上で国民が分裂をしてしまいます。
僕としては何とかこの状況を打破したい。そこで、あえてみなさんにお聞きしたいのです。あなたは日本の原子力発電はどのようにすべきだとお考えですか。
原発は即時全廃させるべきなのか。それとも代替エネルギーとして自然エネルギーの開発を進めながら順次縮小させていくべきなのか。あるいは、より安全でより安価な原子力発を実現させることを目指して、積極的に原子力発電を発展させていくべきなのか。それともまったく別の選択肢があるのか。
真摯な議論をしたいと思います。あなたの考えをぜひお聞かせください。
エネルギー問題は、まだどの国も最善策を模索している非常に難しい問題だと思います。
例えばですが、現在私が住んでいるアメリカの州は、原発はなく石炭または石油ベースの火力発電所に頼っています。そのため(それだけが理由ではないですが)空気汚染が進んでいるワースト10の州に入っており、州知事はそれに対抗するため近年風力発電所に力を入れて、広大な農地に次々と風車を立てていますが、まだ州全体の数パーセントしか担っていない状況です。(もちろんやらないよりいいと思います。)
個人的には、日本は次の10-20年で脱原発を計ってほしいと思います。化石燃料が急騰しても原発に頼ればいいという場合と、原発に頼れないという場合では、代替エネルギーを模索する上でかけるリソースが変わってくると思うからです。脱原発をすでに掲げているドイツと協力して次のエネルギー源を研究するというのはどうでしょうか。
ただ、日本にとって基本的に国外の資源に頼らなくてはいけない火力発電所、まだまだ供給不足の自然エネルギー、これらを補うために新技術である原発に投資するという今までの決断は、リスク分散という観点から私は妥当なものだったと思います。残念なのは事故後に「信じられない。そもそも原発は悪だったのを私たちはだまされて合意させられていた。責任者でてこい!」というメンタリティーをメディアなどで強く感じることです。原発をサポートしていた有名人がリストアップされたりして。このメンタリティーは、直接被害があった福島県の人々には理解できるし、損害賠償という形で責任者と戦うべきだとも思う。でも一般国民の世論としては危険な部分があるように思います。
これは今週の茂木さんのメルマガにも通じるところがありますが、ちょっとでも失敗するととにかくたたく、責任者を追及し退任させる、ここから学べることは、失敗してもできる限り隠す、責任者をうやむやにする、これくらいではないでしょうか。また企業側にしても、隠し切れないくらいの失敗を起こした場合、責任者を退任させることでことを済ませられるというのは簡単ですが再発防止にはまったくなってない。
今回の原発事故はあまりに大きな失敗だったので、世論が怒りに満ちるというのは理解できます。
ここを冷静に、なぜ防げなかったのか、そのためには今後どうしたらいいのか、ちょっとしたミスや失敗があった場合報告しやすくするにはどうしたらいいか、そこで学んだことを共有するにはどうしたらいいか、電力会社同士の競争を拒むための非効率な制度をどう効率的にするか、こういったことを議論してほしいです。また私が特に大事だと思うのは、今回事故直後、混乱のためこういう行動をしてしまったけど、分析すると結果的にはこういった行動を起こすべきであった、またはするためにこういう仕組みにしなくてはいけないというような詳細なレポートではないでしょうか。
ただ、こういう調査をするにあたって、「では、なぜ最初からそうしなかったのか、誰がそう指示したのか、責任者でてこい!」という態度で受け止めては、決してオープンな調査はなされないということを本当に政治家ならびにメディアは自覚するべきだと思います。(ベントするしないでも大問題になりましたが。)
もう一点付け加えるとすると、今のところドイツ・イタリアは脱原発を宣言してますが、多くの国ではしばらくすれば忘れたように新しい原発の建設が始まる気がします。ウェッブで探すと今でも45カ国で新規に原発を建設することが検討または計画されているようです。多くは新興国です。
次の10-20年で画期的で安全な代替エネルギー源が発見されない限り、どこかの国でまた原発による大惨事は必ず起こると思っています。
このような、頻度は非常に低いけれど一回おきると莫大な被害が発生するような事象は、保険のような機関を作って世界的に保障するというのも一案かと思います。
保険に入るためには、各原発は国際的な機関からの視察を迎えなくてはならずそのリスク、支払損害額の試算をベースに保険料が確定される。保険料は将来の損害支払いのために積み立てられる。定期的にメンテナンスとして視察をいれる。事故が発生した場合その国際機関も一緒になって事故処理を行うことで事故処理のノウハウを蓄積させる。そのかわり、国としては損害が発生した場合、保障の問題を悩まなくてすむ。
おそらく保険会社でこのような引き受けをしているところもあるかもしれませんが、より拘束力のある国際機関で一括して引き受けるということが、重要な気がします。今回先進国であり、また長いこと原発にお金をかけてきた日本ですらこれだけ事故処理に手を焼いているわけで、もしこれが新興国で起きた場合、その処理にどれだけ信頼できるのか。それを担保するためにもこういった国際的な枠組みを作る必要があると思います。