原発は是か非か
もちろん「原発は絶対安全だ」と言い続けた国や東京電力の問題は大きいと思います。ただ今回の事故に関して批判的な主張をしている側にも、その議論の仕方においては大いに反省点があるように感じるのです。
このように一見議論が盛り上がっているようで、本当に考えるべき大事なことが見過ごされていっているという状況は、津波の被害や放射能の被害とはまた違った方面から、日本という国の将来を危うくしていると思います。こうした状態があまり長い間続くと、議論の上ではなくて、気持ちの上で国民が分裂をしてしまいます。
僕としては何とかこの状況を打破したい。そこで、あえてみなさんにお聞きしたいのです。あなたは日本の原子力発電はどのようにすべきだとお考えですか。
原発は即時全廃させるべきなのか。それとも代替エネルギーとして自然エネルギーの開発を進めながら順次縮小させていくべきなのか。あるいは、より安全でより安価な原子力発を実現させることを目指して、積極的に原子力発電を発展させていくべきなのか。それともまったく別の選択肢があるのか。
真摯な議論をしたいと思います。あなたの考えをぜひお聞かせください。
orcamieさん(NO.7)の投稿に関連しますが、僕も、交通事故と原発事故は決定的に違うものだと認識しています。また、「100%事故が起こらないといえるか」という質問は、原発の問題を考える上では核心をついた指摘だと思っています。その理由を説明させていただきたいと思います。
※原発事故というのは明快ではない言葉なので、以下では「原発事故」を、放射能の外部漏えいを伴う事故と定義したいと思います。
■事故後の対処方法、影響のおよぶ範囲が「わからない」
交通事故と原発事故の最も大きな違いの一つは、事故後の対処法が確立されているかどうか、という点にあると思います。
交通事故に関しては、事故処理のために必要な緊急車両や病院などのインフラも整備されていて、事故後の対応システムが確立されています。したがって、事故が時間経過とともにどんどん収集がつかなくなるという事態は回避できる状態にあります。この意味で、交通事故は「対処が可能」な事故です。
これに対し、原発事故では、今回の例を見てもわかるように、一度事故が起きたらどう対処していいかわからない、という側面がります。
福島原発事故の事後対応が、かなり混乱したものであったことは記憶に新しいと思います。事前に確立されていた技術である「SPEEDI」さえ、事故後どう活用するのか、コンセンサスが得られていませんでした。現地では、今も必死に、試行錯誤の作業に取り組む人たちがいるわけです。それでも、未だに今後の見通しが立つ段階にさえ至っていません。
もう1つの大きな違いは、事故の及ぶ影響の範囲だと思います。交通事故の場合は、外傷に限定して言えば、影響は事故の当事者で完結します。しかし、原発事故の影響はその及ぶ範囲が伺いしれません。
例えば、環境的な面で言えば、放射能が外部に漏れたときにどういう影響がでるのか、現在蓄積されている知見では予測が難しいようです。つい最近になって「放射線生態学」という学問分野があることを知ったのですが、野外に出た放射能がどういう経路で循環するのか、そういったメカニズム的なことを含めて、まだまだ未解明の問題が山積しています。
さらに言うと、より深刻かつ緊急な問題である内部被ばくに関しても、これから人体で何が起きるかは、十分な知見が得られていないようです。先日、内部被ばくを特集した番組では、内部被ばくの症状として因果関係が解明されているのは、甲状腺がんのみであると言っていました。現地では心疾患をおこした患者が増えているのですが、心疾患との因果関係は、まだ解明されていないとのこと。実際に因果関係がある場合でも、それを科学的に証明することは困難だし、膨大な費用と時間を必要とします。原発事故は、人体にどのような影響を与えるのか、という部分に関してもよく「わかっていない」と言えるでしょう。
原発事故は、対処方法が確立されておらず、また、事故後の影響さえよくわかってはいません。不明な部分があまりにも多く、その点で、交通事故などとは一線を画していると考えています。
■100%安全だと仮定してきたからこそ、事故の対処法が確立されていなくても運営できた
先に指摘した通り、今回の福島事故では、事故後どう対応すればいいのかというところで、混乱がありました。その最も大きな原因の一つは、あるレベル以上の事故に関しては「起こらない」という前提を設け、事故に対する周到な準備を怠ってきたところにあると思います。原発に関して、僕が問題と考えていることは、事前に様々な可能性を考え、シナリオ書きをきちんと行い、そのそれぞれに対してしらみつぶしに対応策を考えておくということをしない点です。
文頭で「100%事故が起こらないといえるか」という指摘が、本質をついているのではないかと主張しました。
その理由は、これまでの原発の運営では、放射能漏えいが「100%起こらない」と仮定することで、漏えい事故に対する万全の準備を回避してきた面があるからです。なぜなら、一度「100%事故が起こらないとは言えない」と認めたならば、「漏えい事故が起きた時どうするのか」という部分をしっかり考え、納得できる説明をする責任が生じるからです。
しかし、漏えい事故に対し、いったいどう対策を講じるのかと考え出すと、解決不可能といってもいいほど困難な問題だと思います。その理由は、先にも述べた通り、放射能の漏えいがどういった影響をもたらすか、不明な点が多いからです。
何が起きるかさえよくかわからないものに対して、どう対策を取るのか。この問題があまりにも困難だから、「放射能の漏えい」という問題には、そもそも予防的な措置しかとれないのです。だからこそ、これまで100%安全(漏れない)と宣言せざるを得なかったのだと理解しています。
ですから、「100%漏れない」と言わざるを得ないのは、ある意味原発の宿命であって、その本丸をついたのが「100%事故が起こらないといえるか」という質問なのではないでしょうか。
■原発の存続には「漏れた場合」の対策の確立が必要
「100%漏れない」という神話は、今回崩れ去りました。今後は、事故が起こりにくい原子力発電所にするための改築はもちろん、万が一事故が起こった場合の対策もきちんと示さなければ、原発の存続は難しいと思います。
いずれにせよ、「これこれの補修をすれば、漏れることはありえません」というレベルの説明ではなく、原因(テロ、地震、etc.)はどうあれ、「漏れた場合」を想定した対策を講じることが必要です。原発の存続いかんを判断する最も重要なポイントの一つは、この点に関してどれだけ明快な対策を示せるかという点だと思います。
今後、原発の是か非かを考える際には、事故が起きることをシナリオに含めた議論を行い、最悪のシナリオもしっかり示した上で、影響が及ぶ可能性のある住民がそれぞれ判断をする、というやり方が考えられます。
例えば、SPEEDIなどの拡散予測プログラムから、福島レベルの事故が起きた場合の各地の放射能降下量を期待値で示し、その値をもとに適切に重み付けした持ち点で、影響の及びうるすべての範囲の住民が投票し、原発存続の是非を決めるという方法もあると思います。その際、経済的なデメリットなども公正な立場でまとめて、住民が判断できるように提示すべきなのは当然ですが。
■再生可能エネルギーへのシフトは不可欠
究極的には、今後も人類が存続し続け、エネルギーを消費するというのなら、再生可能エネルギーへの移行は避けて通れない道です。なぜなら、原発は持続可能な発電方法ではないからです。
個人的には、自然エネルギーの有効活用に人類の英知とパワーを全開にして注ぐ方が、最初から持続可能ではない原発の技術を発展させるよりも夢があると思っています(^^;
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以上で、原発に関する僕の意見を書かせて頂きました。僕は原子力発電や、それを取り巻く経済などに関する専門知識は持っていません。それでも、このような重大な問題に対して「しろうと」が考えたことを発信していくというのは、やはり意味のあることだと考えています。
今、あらためてインターネット上の情報を見てみると、情報の質の「玉石混交の度合」がすさまじいことに気付かされます。特に、原発問題に関しては、ryosuke85さん(No.9)が指摘されているように、推進派・反対派ともに、公平な情報発信ができているとは言い難く、お互いに情報の歪曲合戦の様相を呈しています。
以前、茂木さんがツイートされていた「個人のメディアカンパニー」ということを考え、今後は、各自がどれだけ誠意をもった情報ハブとなれるかが重要だと思います。
いかに公正な立場から情報を吟味し、どんなコメントを付けてその情報をアウトプットしていくのか。ロジックとエビデンスに基づいた主張を一貫して行っていくことで、自分のメディアカンパニーの品質保証をすることが、玉石混交の世界で僕らのできることなのかもしれません。
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※ところで、orcmieさんは、非常にたくさんのソースにあたってらっしゃるようでとても感心しました。まだまだ修正したいところはありますが、時間がないので投稿します。疲れた...orz