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映画の友よ Vol.283<『パンダのすごい世界』『KILL 超覚醒』『バレリーナ The World of John Wick』>

2025年11月30日配信
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Presented by 夜間飛行
“The Book Project 夜間飛行”では、次世代の「本」の形を提案します

切通理作メールマガジン「映画の友よ」

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2025年11月30日 Vol.283 
『パンダのすごい世界』『KILL 超覚醒』『バレリーナ The World of John Wick』

■ePub版→https://yakan-hiko.com/EPUB14832
■web版 →https://yakan-hiko.com/BN14832



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00 巻頭のごあいさつ
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今回は、映画のエンタメ性と眼福についての話題が中心になるでしょう。



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01 今週の目次
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[00] 巻頭のごあいさつ
[01] 今週の目次
[02] 田中祐樹の渋谷区映画日記20251129 下
〇『KILL 超覚醒』
〇『バレリーナ The World of John Wick』
[03]  中国はパンダ国家~『パンダのすごい世界』
[04] あとがき



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02 田中祐樹の渋谷区映画日記20251129 下
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〇『KILL 超覚醒』(インド) 鑑賞:ヒューマントラストシネマ渋谷

原題『KILL』のタイトルが画面に現れるのは、上映開始から40分以上経過してから。いわゆるディレイド・タイトル手法の中でも最強クラスの演出で、『RRR』も同様の仕掛けを持っていたが、本作のインパクトはそれを凌駕する。世界観が固まり大きな事態の変化が訪れた瞬間に、画面いっぱいに赤字で刻まれる“KILL=殺す”の文字は衝撃的で観客の脳裏に焼き付けられる。

舞台はノンストップで走行する寝台列車。ここから始まる地獄絵図は、命の危険にさらされるのが乗客ではなく強盗団側という構図も奇抜。つまりタイトルコールの“KILL”は主人公アムリト(ラクシャ)による処刑執行書だと捉えると高揚感が倍増する。「ここからが本番だ」という通告と同時に、まだ導入だと思わせながら既に逃げ場がないことを露わにするこのコールドオープン手法は、現実から非現実へと突入する境界線を示すものでもあり、主人公の倫理崩壊=“超覚醒”の始まりを告げるフラグなのだと解釈できる。

インド東部ジャールカンド州から首都ニューデリーへ向かう寝台列車に凶悪な武装強盗団が乗り込んでくる。総勢40人もの武装強盗団は、偶然同乗していた大物実業家(バルデーヴ・シン・タークル)の娘トゥリカ(ターニャ・マニクタラ)を人質に取る。

トゥリカには父親が決めた婚約者がいたが、身分の違いを超えて愛し合う恋人アムリトがいた。アムリトはインド特殊部隊に所属する最強兵士で、トゥリカにプロポーズするためこの列車に乗っていた。

恋人の危機に救出を試みるアムリトは、同僚ヴィレシュ(アビシェーク・チャウハン)と共に強盗団に立ち向かう。やがて返り討ちにした敵のひとりが強盗団の元締めベニ(アシーシュ・ヴィディヤルティ)の兄弟だったことから、この強盗団は血縁で構成された一族であることが判明する。

強盗団といえど親族の繋がりを最も大事にしているのがインド人の気質。父を殺された息子ラヴィは怒り狂い、リーダー格で最も残忍な男ファニ(ラガヴ・ジュヤル)は、人質トゥリカの抵抗に苛立ち狂暴性を増していく。

狭い列車内での肉弾戦は次第にエスカレートし犠牲者が増加。そしてついにアムリトが特殊部隊員としての倫理を脱ぎ捨て、血の匂いを求める狂気へと変貌していく事態が起きる。

第一の見どころは、言うまでもなく格闘アクション。寝台列車という通常より狭い通路、連結部の揺れによる不安定な環境の中で繰り広げられる戦闘は、タイトルが出て以降、明らかに質を変える。頭上や足元の死角を利用した立体的な殺陣、壁や便器を凶器に変える処刑のような殺し方。ナイフが肉体に沈んでいく残酷な描写は容赦なく、緊張感は飽和し善悪を超えた激闘が展開される。

そして注目すべきは主人公アムリトの心理変化を映し出す装置として機能している闘い方の変化が、格闘の残酷さに比例して強調されていくところ。怒らせてはいけない最強の男の暴走を目の当たりにしているうちに、鑑賞側の倫理観も麻痺してくる感覚が生まれる。

第二の見どころはその闘いに情的カタルシスを加える人間関係のドラマで、過激な映像の中に恋愛と家族愛の悲劇、さらには敵側の血縁愛までもが描かれる。血縁を重んじるインド社会の文化的背景が組み込まれ、お互いが「愛する者のために相手を殺す」という悲劇の循環を普遍的テーマのように叩きつけ、物語は血に塗れた浪漫の交錯となってラストへと収束する。

ボリウッド映画には数多くの肉弾格闘作品があるが、伝統的にはマサラムービー的な英雄譚が土台となり道徳的な描写が守られていることが多い。『RRR』にも痛々しい描写はあったが『KILL 超覚醒』はそれを超える過激さを提示しつつ、情的なシチュエーションを可視化しているところが個性的。

血と涙にまみれた結末へと突き進みながらも、愛と血縁の物語に観客は心を揺さぶられることになる。ハリウッドでのリメイクも既に決定しているということで、インド映画の挑戦的表現がどのように再解釈されるのかの期待が高まる。


〇『バレリーナ The World of John Wick』(アメリカ)鑑賞:TOHOシネマズ新宿

アクションの過剰化で疲弊してしまった『ジョン・ウィック:パラベラム』で鑑賞を止めてしまったため、続編の『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は観ていない。にも関わらずこのスピンオフ作品の鑑賞に戻ってきた動機は、主演のアナ・デ・アルマスに他ならない。

彼女は『ノック・ノック』でキアヌ・リーブスと既に共演しており、『ブレードランナー2049』ではライアン・ゴズリング、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ではダニエル・クレイグと、軽妙な会話センスと身体性を兼ね備えた希有な魅力を示してきた。『ブロンド』でのマリリン・モンロー役を経た彼女が、ついに本格アクション映画で主演を担う。そのキャリアの必然こそが本作最大の誘因だった。

ジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)を生み出したルスカ・ロマで殺しのテクニックを磨き、亡き父親に関する手がかりを掴んで復讐に挑むイヴ(アナ・デ・アルマス)は、敵教団とルスカ・ロマの休戦協定を無視して裏社会の掟をぶち壊していく。

ジョン・ウィックが放っていた“容赦のなさ”や“処理速度”とは異なる戦闘質感の演出は、シリーズで慢性的になっていた暴力の過剰性をリブートしているようにも感じ、身体能力に加えてその柔らかさや戦闘時の呼吸の乱れ、相手を仕留める一拍前の思考が垣間見える瞬間のアナ・デ・アルマスの表情に痺れる。

特に印象的だったのは物語序盤、まだ村全員が殺し屋教団だと判明する前時点でのカフェの一幕。店員が無表情から確信を持った殺意へと顔付きが切り替わるところから、本作は一気にアクセルをベタ踏みする。まるで『アトミック・ブロンド』(2017年)のクライマックスを延々と引き伸ばしたかのような密度の濃い肉弾戦と銃撃戦。

それが既視感のない斬新さを保っているのは、アナ・デ・アルマスが心身を削られながら前進するタイプのアクションに徹しているからだろう。華麗さよりも持久戦のリアルに傾いた活躍は観客の呼吸をも奪っていくようで、だからこそ後半のジョン・ウィックの登場にもカタルシスが増していく。

更に始まる火炎放射器戦は緊張の極点を超えてしまい、もはや笑うしかない過剰さに繋がっていくのも御愛嬌範囲。シリーズの濫用に疲れていた観客を、もう一度この世界に引き戻す世界観の刷新とアクションの再文脈化は見事。このスピンオフ版がシリーズの単なる補足ではなく、世界観の横展開とキャラクターの両面での更新を示したと感じている。果たして続編はあるのか?


田中祐樹●たなか・ゆうき
1965年生まれ。渋谷住人になった2005年から近所を中心とした映画館通いを本格的に開
始。2024年鑑賞数172本(前年比26本減)でのベスト5は『コット、はじまりの夏』『
マッドマックス:フュリオサ』『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』『流麻溝十五号』
『花嫁はどこへ?』。時間を忘れるくらい集中できて夢中になれる映画を求める。



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03 中国はパンダ国家~『パンダのすごい世界』
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中国と言えばパンダの本場。本作は中国で作られたパンダのドキュメンタリーだ。まずパンダの遺骨が発掘される現場にカメラが向けられ、太古の昔からのパンダの存在が示される。

次に、パンダが棲息する広大な山林を観察、サポートする人々の仕事が描かれる。パンダに警戒されないため、パンダそっくりの扮装をする担当者が微笑ましい。

彼らは自然のままのパンダの暮らしを尊重しながら、個体数の把握、出産の有無などをフォローし、たとえば一匹では育てられない数の子どもが産まれた事が確認された場合、引き取って育てたり、代理母のパンダに任せたりもする。

出来るだけ母親の教育を直接受けさせるため、人間側は過度の干渉はしない。それでも、パンダへの愛情がこぼれんばかりの態度を見せる担当者の姿勢には胸打たれる。
愛情とは言葉ではなく、日々尽くす事だとナレーションで語られ、その通りの実際の行動が描かれる。

食べ物も成長していくことで変わっていくが、飼育する場合、そのバトンタッチにも意を配る。また木登りする能力はパンダによって死活問題だが、それも自然に身に着くのではなく、母パンダの教育のたまものなのだ。

同時に二匹の子の木登りを見守らなければならず、どっちに構おうか困惑を見せる母パンダの姿が捉えられるが、感情が伝わってくるシーンだ。

まだ着地が上手く行かない子パンダを、母パンダが抱いて受け止める姿にこそ「愛」があるというナレーションも、説得力がある。

中盤は動物園での模様も描かれるが、パンダの生育環境の保全と共に展示され、早い先着順の客以外は1人3分の見学時間。展示エリアに出てこない時は無理強いせず、アナウンスがされる。

それでも、世界中の国から客が押し寄せ、しかもその逢瀬に満足感をみせる。

また、海外への「親善大使」の務めを終えた老パンダ(三十歳代が人間でいうと八十歳代に当たるという)が帰国し、最後に看取る日まで手厚く遇されても居る。

まさに国民単位で愛されているのだ。

小さいパンダも、大人になってからのパンダも、丸い体型で、時にでんぐり返りながら、ひたすら両手で笹を持って食べる様は、まさに眼福である。

筆者は日中国交回復の際、親善大使となったパンダを上野動物園に観に行ったことがある。当時は余りの混雑で、パンダの前では立ち止まらず、歩いて通過する間しか見学できなかった。

そのせいもあり、いまだにパンダといえばレア感があり、このような映画で長く見続けていられるだけでも幸福感が得られる。

しかしそうした原体験がなくても、白と黒の配色の妙も含め、やはりパンダは特別な存在だと思わざるを得ないのである。

これからも、日中含め、各国との親善大使であってほしいと願う。


2026年2月6日公開予定
https://unpfilm.com/pandas/



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04 あとがき
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『パンダのすごい世界』、日本で無事公開されることを祈ります。日中友好の最初のシンボルですから。

本メルマガのご感想くだされば幸いです。X(旧ツイッター)「切通理作」へのメッセージでも結構ですし、メールくださっても結構です。
こちらもkirira@nifty.comです。


2025年11月30日
切通理作



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キネマ旬報ベストテン、映画秘宝ベストテン、日本映画プロフェッショナル大賞の現役審査員であり、過去には映画芸術ベストテン、毎日コンクールドキュメンタリー部門、大藤信郎賞(アニメ映画)、サンダンス映画祭アジア部門日本選考、東京財団アニメ批評コンテスト等で審査員を務めてきた筆者が、日々追いかける映画について本音で配信。
公開中の映画、公開待機中の映画、物議を醸す話題作、そして思わぬ掘り出し物に斬り込み、2013年から足掛け3年になります。
批評ばかりでなく「この映画に関わった人と会いたい」「この人と映画の話をしたい!」と思ったら、無鉄砲に出かけていきます。普段から特撮やピンク映画の連載を持ち、趣味としても大好きなので、古今東西の特撮映画の醍醐味をひもとくコラムや、クールな美女子に会いに行っちゃうセクシー記事も時々展開させてます。

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