『俺に似たひと』 平川 克美
2012年05月18日 評者:名越康文
僕もお世話になっているラジオデイズ社長、平川克美さんが、自身の父親を介護した顛末をつづった小説です。介護本は数あれど、ここまで圧倒的なリアリティで迫ってくる物語ははじめてでした。
平川さんは僕より10歳ばかり年上なので、平川さんの父上が生きてきた時代というのは、まさに戦後日本の高度成長の時代でした。朝鮮戦争の特需のなか、日本の第二次産業の下支えをしている町工場の人たちが5人、10人と人を雇い、会社を作り、腕のいい職人たちが世界に類を見ないような精緻な部品や機械を作り出してきた、そういう時代。
平川さんはこの本に先だって出た『移行期的混乱』『反戦略的ビジネスのすすめ』という本を書くなかで、そういう時代の人たちがどのように町に息づき、日本がどのように形作られてきたのか、ということをひとつひとつ、実証的に調べ上げてこられました。そういう地道な仕事が、この本の舞台となる町と、お父さんの存在のリアリティを生み出すことにつながっています。
もちろん、平川さんがそんなことを意識していたはずはなく、それらの本はそれぞれの目的があって書かれたものだと思うのですが、その上に成り立った小説だからこそ、作中に描かれる「介護」に他に類をみない説得力が生じた。その意味でこの本そのものは200数十ページの小編なのだけれど、実は平川さんのここ何年かの仕事がひとつに結実した、“大作”なんだと思うんです。
僕がしびれるほど感動してしまったのは物語の中盤、平川さんがお父さんに、摘便といって、肛門に指を入れて便を出す介護をしてあげるシーンでした。一口に介護というけれど、実はこの排泄介助のところに大きな関門、山場があります。ただ、僕自身、医療上人の身体とかかわってきたこともあり、介護の話そのものに免疫がないわけではありません。ですから、単にそのエピソードを読んでも、僕はここまでしびれを覚えなかったでしょう。
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